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アルツハイマー病の新しい治療薬「抗体薬」ってなに?レカネマブとドナネマブによる最新治療と当院の役割

[2025.05.12]

最近、アルツハイマー病の治療に大きな進展がありました。「レカネマブ」(商品名:レケンビ)と「ドナネマブ」(商品名:ケサンラ)という新しい薬が、日本でも使用できるようになったのです。

これらの新薬は抗体薬と呼ばれ、病気の原因に直接作用するアルツハイマー病にとって初めての治療薬になります。

当院は、これらの抗体薬治療の「フォローアップ施設」として認定されており、継続的な治療を地域で受けられる体制を整えています。

この記事では、話題の新薬と治療の流れについて、わかりやすくご紹介します。

アルツハイマー病とは何か?

アルツハイマー病は、脳の中に「アミロイドベータ」という不要なタンパク質がたまることから始まる、認知症の原因として最も多い病気です。「アミロイドベータ」のたまりは、症状が出る15〜20年も前から始まっていることがわかっています。
その後、「タウ」という別のタンパク質が異常な形に変化し、少しずつ神経細胞が傷つけていき記憶力や判断力が低下していきます。

新しい薬「レカネマブ」と「ドナネマブ」とは?

レカネマブとドナネマブは、「モノクローナル抗体」(特定の物質だけに結合する特殊なタンパク質)と呼ばれるもので、脳内のアミロイドベータを見つけて取り除く働きがあります。このような作用をもつ薬を抗体薬と呼びます。

治療法:2週間または4週間に1回、点滴で行う治療になります。

期待できる効果:症状を治すのではなく、進行を遅らせることが目的です

▶ たとえば、大規模な国際的な臨床試験(新薬の効果を確かめる研究)ではレカネマブとドナネマブは18ヶ月後の認知機能の低下をそれぞれ、約27%、約35%遅らせたという研究結果が示されています。

【詳しい薬の働きの解説】

血液に入った薬剤が脳に移動し、アミロイドベータにくっつきます。くっついた薬は、体の免疫システム(体を守る仕組み)を使って、アミロイドベータを分解して除去します。
従来のアルツハイマー型認知症の治療薬(ドネペジルやメマンチンなど)が脳の神経伝達物質(情報を伝える物質)の働きを整えて「症状を和らげる」ものだったのに対し、これらの新しい薬は「病気の原因となるタンパク質を取り除く」という全く新しい作用をもつ薬なのです。


注意点

1. 今ある症状を劇的に良くするものではありません:これらの薬は病気の進行を遅らせることが主な効果で、すでに失われた記憶や機能を取り戻すわけではありません。
2. 早い段階で使うほど効果的です:アミロイドベータがたまり始めた早い段階、具体的には軽度認知障害(MCI)や軽症のアルツハイマー型認知症の段階で始めるほど効果が期待できます。
3. 効果には個人差があります:すべての人に同じように効くわけではなく、効果の表れ方は人によって違います。

副作用は?

最も注意が必要なのが「ARIA(アリア)」という副作用です。

  • 脳のむくみや小さな出血がMRIで見つかることがあります
    ▶臨床試験では、レカネマブを使った患者さんの約21.3%、ドナネマブを使った患者さんの約31.4%にARIAが見られました。
  • 症状は軽いことが多いですが、頭痛や混乱などが出ることもあります
    ▶治療中は定期的にMRI検査(磁気を使って体の中を詳しく調べる検査)を行い、ARIAがないか確認します。特に治療の初めの頃(最初の3〜4回の点滴のとき)はこの副作用のリスクが高まるため、注意深く様子を見ていきます。
  • 点滴に関連したアレルギー反応(発疹、かゆみ、息苦しさなど)が起こることもあります。

治療を受けられる方の条件

これらの薬による治療を受けるには、いくつかの条件があります

  1. 診断: アルツハイマー病またはアルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)と診断されていること
  2. 検査: アミロイドPET(特殊な検査で脳のアミロイドを見る方法)や脳脊髄液検査(腰から針を刺して脳の水を少し採取する検査)などで、脳の中にアミロイドベータがたまっていることが確認されていること
  3. 病気の進み具合: 軽度〜中等度の認知症であること(重度の認知症では効果が限られており、リスクが高まります)
  4. 全身の状態: 重い心臓病や感染症がないなど、全身の状態が治療に耐えられること
  5. 血液をサラサラにする薬: 抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)を飲んでいる場合は、ARIAのリスクが高まるため、慎重に判断する必要があります

費用と保険適用状況

薬の費用は年間で約300万円と非常に高額ですが、保険適用されており、高額療養費制度を使えば負担を軽減できます。
それぞれの薬剤の自己負担額の概算は以下の通りです。



当院はフォローアップ施設です

抗体薬による治療は、その安全性と効果を確保するため、「初回導入施設」と「フォローアップ施設」の2種類の医療機関で行われています。

初回導入施設とフォローアップ施設の役割

「初回導入施設」 は、アルツハイマー病の診断から治療開始までを担当し、初回投与から6ヶ月間の点滴治療を実施します。この施設では、詳細な検査や診断、副作用のリスク評価、そして治療開始後の初期の副作用モニタリングを行います。

「フォローアップ施設」 は、安全に治療が進んでいる患者さんの継続治療を担当します。定期的な点滴治療の実施、副作用のチェック、治療効果の評価などを行い、長期間にわたる治療を支えます。

治療を検討するときのステップ

  1. 専門医に相談する: まずは認知症の専門医(神経内科医、精神科医、脳神経外科医など)に相談しましょう
  2. 検査を受ける: アミロイドPETや脳脊髄液検査など、アミロイドベータのたまりを確認する検査を受けます
  3. 効果とリスクを比較する: ご自身の状態に合わせて、期待できる効果と起こりうる副作用のバランスを医師と相談しましょう
  4. 生活への影響を考える: 定期的な通院や検査が必要となることを踏まえ、生活への影響を考えましょう。薬は治療の選択肢の一つですが、アルツハイマー病への対応は薬だけではありません。認知症の進行に合わせた生活環境の調整、認知リハビリ(脳の機能を維持・改善するための訓練)、運動や食事の管理、人との交流を続けることなども非常に大切です。
  5. 費用を確認する: 実際にかかる費用や助成制度について確認しましょう

当院では初回導入施設へのご紹介から、その後のフォローアップ治療まで、一貫したサポート体制を整えています。 これらのステップをスムーズに進められるようスタッフ一一丸となってサポートします。

当院のフォローアップ施設としての強み
  1. 地域密着型の継続ケア: 初回導入後の継続治療を地元で受けられるため、初回導入施設の病院への通院や待ち時間の負担が軽減されます
  2. 専門的な知識と設備: 抗体薬治療に必要な知識と設備を持ったスタッフがおり、安心して治療を継続することができます。
  3. 初回導入施設との連携: 地域の基幹病院などの初回導入施設と密に連携し、情報共有を行っています
  4. 総合的なケア: 薬物治療だけでなく、認知症リハビリテーション(デイケア)や家族サポートなども一体的に提供しています。
  5. ご自宅から近い当院でフォローアップ治療を受けることで、治療の継続性を保ちながら、通院の負担を軽減することができます。

新しいアルツハイマー病治療とフォローアップ施設の重要性

レカネマブとドナネマブは、アルツハイマー病の進行を遅らせる可能性のある画期的な薬です。しかし、すべての方に合っているわけではなく、効果とリスクのバランスを慎重に考える必要があります。

ご自身やご家族の状況に合わせて、専門医とよく相談した上で治療を検討してください。また、薬による治療と並行して、生活習慣の改善や適切なケア・サポートの利用も大切です。

当院では、最新の医学的知見に基づいた診療と、患者さん一人ひとりに寄り添ったケアを心がけています。アルツハイマー病や認知症に関するご質問やご不安があれば、いつでもご相談ください。皆様とご家族の生活の質が向上するよう、当クリニックのスタッフが全力でサポートいたします。まずはお気軽にお問い合わせください。

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